産經新聞。
石原氏が取り上げたのは憲法の前文。作家でもある石原氏は「諸国民の公正と信義『に』信頼して…」の部分について、正しくは「信義『を』信頼…」だと指摘。「間違った助詞の一字だけでも変えたい。それがアリの一穴となり、自主憲法の制定につながる」と訴えた。安倍晋三首相は石原氏の違和感に同意。
http://www.sankei.com/politics/news/141031/plt1410310015-n1.html

この「に信頼し」は、漢文訓讀としては通常の用法だ。
信を主とするのでなく、頼を主とするのである。
「に依頼し」と同じと思へば良い。とはいへ、「を」と「に」とが
互ひに入れ替り得るのは文語中にしばしば見られる。
憲法の「に信頼し」は文語的風格を保った語だ。
作家石原氏の鋭敏な感性はどこへ行ったのか。

私は憲法改正など必要ないと思ふ。
第一に、内閣告示かなづかひよりも先に憲法が出來たため、
憲法が正字正かなづかひを保ってゐることを尊びたい。
第二に、憲法第九條「國際紛爭を解決する手段としては」武力を放棄
するのであって、自衞權を放棄してゐない。
日本は自衞戰爭以外に武を動かすことなど有り得ないのだから、
何も問題ない。問題はこの憲法を曲解して、
自衞權までも制限しようとする左翼に在る。
左翼の曲解に迎合する一部自民黨議員に在る。
尖閣にしても、隣國と話し合ふと表明した瞬間に「國際紛爭地」となり、
自衞できなくなる。しかし誤りは憲法でなく隣國と話し合ふことに在る。
東京の領有權を隣國と話し合ふことが有り得るか。有り得ないだらう。
國を防衞する意志が有れば現憲法の改正を要しないし、
意志が薄弱であれば憲法改正後も防衞できない。

以下、近代著名和文家の「に信頼し」を青空文庫から列舉して置かう。

「俊寛」 倉田百三
あなたはあまりに衰へました、わしたちがいかにあなたに信頼してゐるかを思ってください。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000256/files/43686_24405.html

「或女友達への手紙」 リルケ ライネル・マリア 堀辰雄
彼の從來の慣習に信頼し、それに何もかも委ねてゐたのです。
http://www.aozora.gr.jp/cards/001030/files/47896_50029.html

「石油ランプ」  寺田寅彦
一體に吾々は平生あまりに現在の脆弱文明的設備に信頼し過ぎてゐるやうな氣がする。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/43253_17031.html

「潮霧」  有島武郎
船客の凡ては、船長の頭に宿つた數千年の人智の蓄積に全く信頼して、些かの疑も抱かずにゐるのだ。人が己れの智識に信頼する、是れは人の誇りであらねばならぬ。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/4694_20526.html

「翻譯に就いて」  森林太郎
近頃は翻譯書と云ふ翻譯書を予の家に持ち込んで、序文を書かせることが流行る。何の縁故もない人が皆持ち込んで來るのである。中には衆愚がお前の序文に信頼するから不本意ながら書かせるのだと明言する人もある。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/49251_36953.html

「文字のある紙片」  宮本百合子
善良で私に信頼し、同時に無智だ。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3844_12966.html

「桃の傳説」  折口信夫
其風習は、何時頃、何處で生れたものであらうか。國産か、舶來か。此が問題なのである。書物ばかりに信頼することの出來る人は、支那にかうした習慣が古くからある處から、支那の知識が古く書物をとほして傳はつたもの、と説明してゐるのである。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000933/files/46966_26573.html

「意味深き今日の日本文學の相貌を」  宮本百合子
私は讀者の忍耐と誠意と自身の熱意とに信頼して、この仕事をやって見る。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3937_12767.html

「何故の出兵か」  與謝野晶子
果して獨逸の勢力が東漸するか、露國の反過激派が日本に信頼するかも疑問です。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000885/files/3326_6557.html

石原

ついでながら。新刊拙著『尖閣反駁マニュアル百題』
http://www.amazon.co.jp/dp/4916110986