萬世一系概念は、メソポタミアの王であれ基督の家系であれ秦の始皇帝であれ、みな同じである。みな萬世一系を望んだ。ただ史上に斷絶があったか無かったかの差に過ぎない。世界で唯一日本だけは斷絶しなかった。
 一例として蔡温『中山世譜』もこの概念にもとづく。琉球王統も一系を最善としながら、途中で禪讓(簒奪)もあったので、家系としては一系でなく、ただ王統が一系だとしてゐる。家系の斷絶した史實は已むを得ないので、王統だけは統一的に記述しようといふわけである。この「系」概念は父系である。母系であらう筈が無い。女系とは、母の母の母の母の母の、、、と女で遡る概念であり、世界史上に存在しなかった。小説中の女人國だけである。
 皇室の萬世一系は文化面でも世界文化遺産である。バチカンも基督からの道統(法統)を繼ぐ。バチカンはチャイナに媚びたりしてほとんど存在意義を喪失したが、文化的には貴重である。しかしバチカンは血統でなく教統である。我が皇室は文化面だけでもバチカンを遙かに上囘る價値がある。

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西暦1725年。蔡温『中山世譜』凡例。
「自天孫氏至于當今、一系相統者、見琉球一王之義也。然前代諸王、或傳子、或傳賢、其系不一。故天孫氏・舜天王・英祖王・察度王・尚思紹王及當今、萬世之統、各分家系、而明夫親疏之所係也。」
(天孫氏より當今に至るまで、一系もて相ひ統するは、琉球一王の義を見えしむるなり。然れども前代の諸王、或は子に傳へ、或は賢に傳へ、其の系、一ならず。故に天孫氏・舜天王・英祖王・察度王・尚思紹王及び當今、萬世の統、各の家系を分かちて、かの親疏の係る所を明らむるなり。)

現代語。天孫氏から今上まで、一系で統合するわけは、琉球が一人の王である正義を示すのである。しかし前代の諸王は(王位を)子に傳へたり賢人に傳へたり、その家系は一系ではない。だからに天孫氏・舜天王・英祖王・察度王・尚思紹王から今上まで、萬世の王統をそれぞれ家系に分けて記載する。親近の差の根據を明らかにするためである。
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ついでながら、この個所を論じた論文。
「為朝伝説と中山王統」      矢野美沙子
法政大学沖縄文化研究所     「沖縄文化研究」巻36。
2010-03-31  
(中山世譜を易姓革命説だとする。)
http://doi.org/10.15002/00007277
 37ページに曰く、『中山世譜』凡例の前條「大書」を「天書」として、天が王統を定めるといふ蔡温の思想にもとづいて編纂されてゐて、羽地朝秀の源爲朝王統説を否定するために易姓革命説に蔡温が從ったのだ、と。
 これは全くの誤り。大書に對するのが細書であるから、大小である。諸本ともに大に作る。かりに天書とする寫本が存在しても、ここでは天が定める句義ではなく、「上に書く」としかならない。
 蔡温は一統を最善として、王統不一の史實を遺憾として、家系を一統にまとめて記述したのである。大と天との形似だけにもとづいて易姓革命思想だとは、どうしたことか。

   國立公文書館藏明治寫本178-384。
中山世譜凡例公文書館178-0384赤合

以下、國立公文書館藏明治寫本三種。

中山世譜凡例公文書館178-0384


中山世譜凡例公文書館178-0379


https://www.digital.archives.go.jp/das/image-j/M2019051009260356044
中山世譜凡例公文書館178-0385



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