今、上皇を「先帝」と呼ぶ人が結構ゐるのですが、前帝と呼んで下さい。先帝と呼ばないで下さい。先帝は崩御後の呼び方です。

 諸葛孔明「出師の表」曰く「先帝創業未だ半ばならずして中道に崩殂す」。
http://kanbunjuku.com/archives/591

「古事類苑」帝王部・讓位(上)に曰く、
「前帝、皇位を讓り給ふを讓位と云ひ、新帝これを受け給ふを受禪と云ふ。
http://shinku.nichibun.ac.jp/kojiruien/pdf/teio_1/teio_1_0455.pdf

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追記。
ところが上の説明だけでは納得してくれない人がゐる。
しかし「先」はずっと前。「前」は限定なく、直前までの前。
先祖、先人、先父、などは死後の稱。
前妻は生きてゐる離縁した妻。
先妻は死別した妻(但し俗用として離別をも含む)。
先年はずっと前。前年は少し前。
前人未蹈の記録は、直前まで含め誰も記録してなかったこと。
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三記。
先帝といふ呼び方に違和感を覺えて下さい。
普通は諸葛孔明の「先帝」ですよ、で話が終るのですが、
それでも納得しない人もゐます。
これは皇室特殊語彙でなく一般的漢字用法です。
先と前とは同訓「さき」なので混用しがちです。
天皇を帝と呼ぶのは漢文式であって、俗用に馴染みません。
混用の好例が「古」と「舊」(俗字旧)です。
舊式は一時代前のふるくさいもの。
古式ゆかしいのは平安朝などの古典的なもの。
復舊は數日前の状態に戻すこと。
復古は古代の理想に戻すこと。
守舊は頑迷、尚古は古へをたっとぶ。
以上で納得してもらへるでせうか。
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四記。
先帝といふ語を古事類苑データベースに入れると、
讓位した天皇の生前にも先帝といふ語は出て來ました。
つまり和習の語といふことですね。
そして「前帝」で檢索すると、
即位讓位關聯ばかり出て來ました。
しかも明治の編纂者の案語及び條目が主です。
編纂者はほぼ漢學者ですから正式の語を使ひます。
つまり正式に即位讓位關聯では「前帝」と呼ぶが、
雜多に何でも(物語まで)入れてある『古事類苑』の
所引古書では、俗用の「先帝」が多數索中するといふ
ことでせう。陛下は讓位の故實を研究なさった筈で、
『古事類苑』の正式な「前帝」で呼ばれるのが
當然とお考へでせう。
「先帝」はいかに俗用でも私は使ひたくないし
聞きたくない。縁起が惡いし、漢學者ですから。
古事類苑前帝檢索結果


白河法皇