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「DNAバーコード」大規模解析、進化の新事実が浮き彫りに
2018年5月30日 17:41 発信地:パリ/フランス
頭蓋骨AFP
頭蓋骨(2017年11月30日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / CRISTINA QUICLER

【5月30日 AFP】すしバーでマグロと偽って客に出されているテラピアを暴くために使われた携帯型の遺伝子検査機器。この機器が進化に関する深い洞察をもたらす可能性があるなどと、いったい誰が想像しただろうか。

 あるいは、世界中の研究者数百人が10万種の動物から採取し、米政府の遺伝子データベース「ジェンバンク(GenBank)」に蓄積した遺伝子の断片。「DNAバーコード」と呼ばれるこの短い遺伝子マーカー500万個を徹底的に調べ尽くそうなどと、いったい誰が考えついただろうか。

 これを考えつき、実行したのは、米ロックフェラー大学(Rockefeller University)のマーク・ストークル(Mark Stoeckle)氏とスイス・バーゼル大学(Basel University)のデービッド・セイラー(David Thaler)氏の研究チームだ。2人が先週発表した研究結果は、進化の過程に関する複数の定説を、覆すとまではいかずとも揺るがすことは間違いない。


■揺らぐ定説   
 例えば教科書的な生物学の定説では、アリ、ネズミ、ヒトなど広範囲に分布する大規模な個体群を持つ生物種は、時間がたつほど遺伝的多様性が増すという。だが、これは真実なのだろうか。

 人類進化学の国際専門誌「ジャーナル・オブ・ヒューマン・エボリューション(Journal of Human Evolution)」に掲載された論文の主執筆者であるストークル氏は「答えはノーだ」と述べる。世界に分布するヒトは76億人、イエスズメは5億羽、イソシギは10万羽に上るが、遺伝的多様性はどれも「ほぼ同じくらい」だと同氏はAFPの取材に語った。

 今回の研究の最も驚くべき結果は、今日地球上に生息する生物種のうち、ヒトを含む全体の9割が20万年前~10万年前に出現したことが明らかになったことだろう。ストークル氏は「この結論は極めて予想外なので、私は可能な限り厳しい反論を試みた」と述べた。

 ストークル氏のこの反応は無理もない。動物種の90%が遺伝学的見地から言えばほぼ同年齢だという事実を、どのように説明できるだろうか。生物種をほぼ全滅させるような何らかの壊滅的事象が20万年前に発生したのだろうか。


■簡単かつ安価なDNAバーコード解析   
 この結果を理解するには、DNAバーコードについて理解する必要がある。動物は細胞核内にある「核DNA」とミトコンドリア内にある「ミトコンドリアDNA」という2種類のDNAを持っている。

 一つ一つの細胞内で生命活動に必要なエネルギーを作り出す細胞小器官ミトコンドリアには37種類の遺伝子があり、そのうちの一つの「COI」遺伝子が、DNAバーコード解析(DNAバーコーディング)を行うために利用されている。

 生物種間で大きく異なる可能性のある核DNAの遺伝子とは異なり、ミトコンドリアDNAにはすべての動物が保有する共通のDNA配列が存在し、これが比較のための共有基準を提供する。

 またミトコンドリアDNAの解析は、核DNAに比べて単離がはるかに簡単で安価に行うことができる。

 2002年頃にカナダ人分子生物学者のポール・エベール(Paul Hebert)氏が、COI遺伝子の解析によって生物種を同定する方法を開発し、「DNAバーコード」という用語を考案した。

 研究チームは今回、生物10万種のDNAバーコードを解析した結果、大半の動物がヒトとほぼ同時期に出現したことを示す明確な証拠を発見した。

 研究チームが気付いたのは、いわゆる「中立」な遺伝子変異にばらつきがないことだった。中立変異は数世代を経て生じるDNAの微小な変化で、生物個体の生存可能性に対して有利にも不利にもならない。言い換えれば、進化を後押しする自然淘汰や性淘汰に関しては中立変異が無関係であることを意味する。

 この中立突然変異に関して互いにどの程度、類似性があるかは木の年輪のようなもので、これを調べると一つの生物種のおおよその年齢が分かる。

 ここで最初の疑問に立ち返る。現存する生物種の圧倒的大多数がほぼ同時期に出現した理由は何だろうか。


■ダーウィンも当惑?   
 真の大量絶滅は、陸生恐竜と地球上の全生命の半数を死滅させた6550万年前の小惑星衝突を最後に起きていない。これは個体数の「ボトルネック効果」がせいぜい部分的な説明にしかならないことを意味している。

「最も単純な解釈は、生命が常に進化を続けているということだ」と、ストークル氏は説明する。「進化においては常に、その時点で生きている動物が比較的最近出現した可能性の方が高い」

 この観点から考えると、一つの種は一定の期間しか持続せず、その後は新種に進化するか、絶滅するかのどちらかだ。

 今回の研究ではさらにもう一つ、予想外の結果が得られた。生物種には明確な遺伝的境界があり、2つの種の間に位置する中間種はほぼ皆無だという発見だ。

「個体が星だとすると、種はそれらが集まった銀河だ」とストークル氏は例えた。「種とは、何もない広大な遺伝子配列の宇宙空間に点在する、個体の星が凝集した星団だ」

「中間」種が存在しないこともまた、進化論を提唱した英自然科学者チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)を当惑させるだろうと、ストークル氏は話した。(c)AFP/Marlowe HOOD


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