日本ドットコム、川島眞氏論説。末尾で南海宣傳戰に環境破壞問題を絡めるべきだと述べてゐるが、足りない。それよりも歴史の正義を論じることこそ正道だ。チャイナの主張する南海史がそもそも全て嘘であることを、史料で分からせる。NYタイムズ第一面で連載する。歴史戰といふよりも史料戰だ。
------------

南シナ海情勢と中国の対外政策—日本はどう関与すべきか      川島 真     [2015.12.28]  (節録)
http://www.nippon.com/ja/editor/f00036/

米国の「航行の自由」作戦とその限界

米国は、リバランス政策をとって東アジアの経済発展にコミットし、中国重視の政策をとってきた。日本をはじめ、同盟国との安全保障関係の強化もあるが、それは中国との関係を緊張させることを意図してはいない。オバマ政権は、一期と二期で中国に対する姿勢が異なり、次第に警戒心を強めているようにも見えるが、あくまでも対話路線を継続している。

その米国でさえ、ようやく重い腰をあげ、イージス駆逐艦を南シナ海に派遣した。「航行の自由」作戦である。だが、米国は領土問題それ自体には介入せず、あくまでも暗礁の埋め立てによる権利の発生の有無など、国連海洋法条約の解釈をめぐる中国への警告と、航行の自由という原則とその解釈の確認を行っているにすぎない。あるいは、領海における「無害通航」に対して事前通告を求めている中国に対して、事前通告をしないで航行するといったこともあろう。

米国が、イージス駆逐艦を南シナ海に派遣したからといって、中国の飛行場建設や軍事施設の建設などを止めることはできないだろう。そもそも、米国もそこまでの効力があるとは思っていないのではないか。米国はイージス駆逐艦を南シナ海に派遣しながらも、他方で上海近海において中米合同軍事演習を行い、RIMPAC(環太平洋合同演習)に中国を招待している。中国の認識では米国の南シナ海に対する動きを決して強硬だとは見ていないだろう。そうした意味で、オバマ政権は多少中国へのコンテインメントを強めたように見えるが、中国から見れば、自らの姿勢を変えるほどには感じられていないであろう。


ASEAN諸国―経済関係と安全保障問題のジレンマ

南シナ海の事態が緊迫化しても、ASEAN諸国が基本的に正面からそれに対応することは難しい。欧州のNATOのような組織は東アジアには形成されていないのである。しかし、強硬な中国に対峙する国々の間の連絡や結束が高まっているのも確かである。これらの国々は、自らの置かれている状況、中国への対応などについて情報交換を行いだした。もともと、多くの当事国が中国との緊密な経済関係をもち、その経済関係と主権、安全保障の問題をいかに両立するのかという問題に悩んでいた。そして、コーストガード(沿岸警備隊)のケイパビリティーをいかに向上させるのかという課題を共有している。


考え得る5つの対応策

では、強硬な政策を崩しそうにない中国に対して何ができるのか。以下の数点だろう。
……
第五に、世界の非当時国に対するパブリック・ディプロマシーを展開し、中国側の宣伝を相対化することである。その際には、単に主権や領土問題だけでは効果が小さいだろう。

ここで注目されるのが環境問題である。南シナ海での中国の岩礁や暗礁の埋め立ては明らかに環境破壊である。欧米のNGO、メディアなどは遥か遠い地の領土問題よりも、美しい珊瑚礁の破壊に高い関心を示す。これは日本政府から、日本にとっての“正しい”領土問題についての説明を受けた欧米の研究者が筆者に述べたことでもある。自らにとっての“正しさ”もあろうが、相手にとって関心を持てること、引き込まれること、を意識した対外広報が肝要となろう。

(2015年12月21日 記)
川島眞nippon

.