今國會で成立する差別規制法は、本邦域外の出身者に對する差別的言動を禁止するとのことである。域外出身者の定義は
「本邦の域外にある國若しくは地域の出身である者又はその子孫」
となってゐる。子孫まで含めるとのことだから、過去の日本の領域はどこまでか定義する必要が出て來る。そんなことは不可能である。奧州人は坂之上田村麻呂に征討される以前は域外の出身者であった。この定義に相當することになる。
 また、沖繩も古來文化的には100%日本の内であったが、統治領域としては慶長十四年(西暦千六百九年)まで或る程度本邦の外であったから、基準次第で當時の沖繩住民の子孫は域外出身者といふことになり得る。また、鎌倉幕府統治下の東日本は事實上の獨立國であったとも解釋できるので、東日本出身者も域外出身者となる。勿論名古屋以東、日本武尊に征討された地域も本邦域外だ。神武天皇の東征により日本國に編入された近畿地方も本邦域外だ。邪馬臺國九州説とも關聯して來る。また戰國大名統治域は全て本邦域外と解釋することも可能だ。
 また近代では、明治に設置された陸奧國等は本邦域内であらうが、同時期までの琉球國も本邦域内である。これにつき左翼思想で異議を唱へる人々が出現する虞れがある。
 要するに本邦の領域を時代ごとに定義する必要がある。建國そのものが問はれることになる。さうならぬやう、例へば明治二十二年以前の域外出身者には適用しないなど、年代を定める必要がある。もしくは本邦の戸籍法成立以後に歸化もしくは入國した者と定義しても良い。舊統治下の朝鮮台灣は本邦域内であったから、この法律は適用されないのか。そのあたりも定める必要がある。簡單ではない。歴史問題となってゆくだらう。


陸奧國
 ▲初期の陸奧國(赤色)