Jedidiah_Morse
    ▲Jedidiah Morse

昨年(平成二十七年)十月十九日、ジェディディア・モース(Jedidiah Morse)の『世界地名新辭典』西暦千八百二十一年版の尖閣について紹介した。リンク:
http://senkaku.blog.jp/archives/45784280.html
曰く、「Tiaoyu-su, small isl. in the Chinese Sea, belonging to those called Lieou-kieou. Lon. 124°52' E., Lat. 25°55' N. 」
(釣魚嶼。琉球と呼ばれる島々に屬する支那海の小島)
と。これはもともと西暦千八百八年のクラットウェル氏の記述である。
http://senkaku.blog.jp/archives/45741243.html

 ところがモース氏同書の西暦千八百二十三年版では、少しく字句が改まる。
標題:『A New Universal Gazetteer: Or Geographical Dictionary』
著者:Jedidiah Morse, Richard Cary Morse
ニューヘイブンにてS. Converse氏刊、1823年。
https://books.google.co.jp/books?id=fbMBAAAAYAAJ
1823Tiaoyusu_Morse氏New_Universal_Gazetteer
第七百六十一頁に曰く、
「Tiaoyu-su, one of the Loochoo islands in the Chinese sea. Lon. 123°37' E. Lat 25°55' N. 」
(釣魚嶼。琉球諸島の一つ、支那海に在り。)
と。琉球の標記がLieou-kieouからLoochooに入れ替ったのは、ブロートン方式である。
http://senkaku.blog.jp/2016020854287972.html
ブロートンは西暦千七百九十七年に琉球諸島の間を航行し、はじめて「Loochoo」といふ地元沖繩方言の音を記録した。その航海記が西暦千八百四年に刊行されて以後、歐洲史料にはLoochooが出現し始める。西暦千八百四年より以前は、西暦千七百五十一年にゴービルがパリに書き送ったチャイナ字音の「Lieou-kieou」といふ標記が主流であった。
 また、西暦千八百二十一年版では、まづ尖閣を支那海(東支那海)の島と定義して、その後に自信無ささうに、琉球と呼ばれる云々と附け足してある。もともとゴービルは「支那でLieou-kieouと呼ばれる島」として、地元名でないことを前提としてゐた。それが西暦千八百二十三年版では、まづはっきりと琉球諸島の島と明示した上で、後から東支那海だと附記する。「loochoo」(るうちゅう)といふ地元の字音とともにを信頼したのである。
 西暦千八百二十三年版はブロートンの新情報を採用して、琉球諸島内の尖閣といふ認識をさらに確かにしたのであらう。情報が明瞭になればなるほど、尖閣は琉球だといふ認識が深まって行く。その過程の一環を、二年を隔てたモース氏の兩版の差が示してゐる。
 尖閣を爭ひの種となる邪魔な無人島に過ぎないと輕んずる人々が近年多い。しかしモース氏はわづか二年を隔てた微細な修正で、わざわざ尖閣認識を明確化した。歴史上重要な航路の標として注目してゐたが故である。ただ西暦千八百二十三年版でも「Hoapinsu」を收録しないのは殘念なところである。しかしモース氏辭典は一册單行なので、收録地名數は限られてゐる。それでも「Tiaoyu-su」を入れたことにこそ、尖閣の重要性がある。

 なほ、ジェディディア・モースの西暦千八百八年版地名辭典ではTiaoyu-suもHoapin-suも收録しない。
『A New Gazetteer of the Eastern Continent: Or, A Geographical Dictionary』
著者:Jedidiah Morse及びElijah Parish。
ボストン、J. T. Buckingham氏刊, 1808年第二版。
https://books.google.co.jp/books?id=xXI9AAAAYAAJ
東方大陸とはアメリカ以外を指すらしい。尖閣未收録から收録への差は何か。頁數がやや増えたのも確かだが、それよりもラペルーズとブロートンの尖閣探査記録が流布するとともに、モース氏は尖閣を重視し始めたのであらう。

記録:
https://web.archive.org/web/20160208212402/http://senkaku.blog.jp/2016020854293870.html
https://archive.is/VZ5Ar


以上の内容は『八重山日報』連載「歐洲史料尖閣獺祭録」にて三月一日に掲載します。
http://www.shimbun-online.com/latest/yaeyamanippo.html