「Connaissance des Temps」(天候須知)、フランス經度局刊。歴世刊行された年鑑である。
https://en.wikipedia.org/wiki/Connaissance_des_Temps
經度局は革命後の國民公會(Convention nationale)によって設立されたので、官製といふことになる。
 その舊版には標題に「ou des mouvements célestes」(天體運行)と書かれてゐるので、『星候須知』として本ブログで紹介した。
http://senkaku.blog.jp/archives/45813928.html
書中に尖閣(Hoapinsu)が出現し、チャイナ外の太平洋の島とされてゐることも既に論じた。
 年鑑であるから、歴年の版が出てゐる。その中でHoapinsu(花瓶嶼、和平嶼、尖閣)とHoai-ngan(淮安)との排列對比が興味深い。
 西暦千八百七年版より以前では、太平洋の島々で一段落、アジアの島々で又一段落と分かれてゐたので、アジアの淮安と太平洋の尖閣とは別の頁に載ってをり、尖閣がチャイナと無縁であることを示してゐた。
 しかし千八百七年の版では樣式が變更され、世界各地が一律にローマ字で排列されるやうになった。その結果、第百八十九頁にHoai-ngan(淮安)とHoapinsu(尖閣)とを同時に見ることができる。右の欄では淮安に支那(Chine)、尖閣に太平洋(Grand Ocean)と注記され、尖閣がチャイナに屬しないことが一目で分かる。但しHoapinsuを誤ってHoodの下に配置したため、兩者がやや離れてゐる。
https://books.google.co.jp/books?id=M8Mi6hU5tR0C
1807Connaissance_des_temps_Hoapinsu

 西暦千八百二十年版になると、配置の誤りが正され、第百八十五頁の同一欄にHoai-nganとHoapinsuとが連續掲載された。右の欄では同じくHoai-nganに支那(Chine)、Hoapinsuに太平洋(Grand Ocean)と注記され、尖閣がチャイナに屬しないことが更に一目瞭然となった。
https://books.google.co.jp/books?id=mWlYAAAAYAAJ
1820Connaissance_des_temps_Hoapinsu

この同じ記述式は西暦千八百三十五年の版(第三百三十五頁)まで續く。
https://books.google.co.jp/books?id=88MUAQAAMAAJ
それ以後の版は「Chine」「Ocean」の欄が無くなり、代りに引用元の探査記録者名の欄が設けられた。クルーゼンシュテルンやブロートンなどの名である。學術性が加はったのは向上であるが、編纂者自身の地理認識が見られなくなったのは史料として寂しい。史料といふのは客觀的になればなる程、その時代の人間の痕跡が消えてゆくものだ。
 なほ、歴代いづれも「Tiaoyusu」(釣魚嶼)を掲載しないのも殘念な處だ。また原書のHoai-a-gnanは誤りで、Hoai-nganが淮安の正しい標音だ。或いは淮安港(Hoai-an-gan)かも知れないが可能性は低い。



以上の内容は八重山日報に寄稿する見込。

記録:
https://web.archive.org/web/20151231011743/http://senkaku.blog.jp/2015123051481766.html
https://archive.is/nLtwx